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教室紹介(フラテ)
1999年度(平成12年3月発行 フラテ86)
平成10年4月の大学院大学への移行に伴って、大正11年の開講以来の呼称である「解剖学第二講座」は「生体機能構造学講座・生体構造解析学分野」へと 講座名が変わりました。平成10年11月より、私(渡辺)がこの分野の担当となり、研究の方向性も「人類学」から「分子神経解剖学」へと変わりました。新教室の紹介としては、本号が最初となりますので、まずは分子神経解剖学molecular neuroanatomyについて簡単に説明いたします。
組織切片上において、遺伝子やそれがコードする蛋白分子の活性や局在を明らかにする研究方法を、組織化学histochemistry/細胞化学cytochemistryと呼びます。この研究方法を基盤として、脳科学brain scienceにおける分子の機能的役割を探究する学問を、私は分子神経解剖学と呼んでおります。方法論的には、1) in situハイブリダイゼーション法による遺伝子発現解析、2) 免疫組織化学法による蛋白分子局在解析、3) 特定の遺伝子を欠失・修飾された遺伝子改変マウス脳の形態学的解析を、3つの基本的研究戦略としています。現在、興味を持っている進めている研究テーマは、脳の可塑性と形成の制御機構です。具体的には、1) グルタミン酸による脳の発達/可塑性制御機構の解明と、2) グリア細胞によるニューロン分化の制御機構の解明を目指しております。この2つのテーマは、一見すると別個の研究テーマのようにも見えます。しかし、脳の形成と可塑性の観点から捕らえると、前者はその分子機構として、後者はその細胞機構として共に重要な役割を果たしており、オーバーラップすることがしばしばあります。その一例を、簡単に紹介します。
グルタミン酸は、脳における最も主要な神経伝達物質で、記憶や学習の基盤と考えられるシナプス可塑性に関与しています。最近の神経科学におけるトピックスの1つは、神経活動パターンに依存してシナプス回路の増強/抑制に関わる シナプス可塑性制御分子が、発達段階では活動依存性のシナプス強化/排除に関わっているという事実です。さらに、シナプス形成以前のニューロンにおいてもグルタミン酸受容体が発現し、その活性化が神経細胞の移動や突起伸展を制御していることがわかっています。ところが、グルタミン酸を放出する神経終末が存在しない早期の発達段階において、一体どこからグルタミン酸が供給されているのか不明です。この問題に対する答えは、放射状グリアにあると私は考えます。放射状グリアは、発達段階に一過性に存在する特殊なグリア細胞で、移動中の神経細胞や伸展しつつある樹状突起と密に接しています。興味深いことに、グルタミン酸の輸送に関わるトランスポーターは、この放射状グリアに特異的に発現しており、グルタミン酸の供給源として機能している可能性があります。
次に、教室員の紹介をします。
井上 馨 (医療短期大学部教授)
今春、本教室の助教授から北海道大学医療短期大学部作業療法学科の教授に就任しました。これからも人体解剖学の講議と実習を指導するということには変わりはありませんが、教育の責任という点においては非常に重くなりました。
永島 雅文 (講師)
眼動脈に関する人体解剖学的研究を指導しこれを論文として発表しました。今年は、さらに、米国留学中に行った成長神経軸索の経路選択機構に関わる細胞生物学的研究が 論文となりました。今後、軸索伸展とグリア環境に関する神経解剖学的研究に進むそうです。
清水 秀美 (技官)
これまで市中病院の病理部に勤務していましたが、今年の2月より本教室所属の技官となりました。解剖実習の遺体処置と法医解剖の剖検介助という忙しい業務を担当しています。研究技術に対して強い関心を持っており、自ら修得したテクニックを試してみることが、食後の甘いデザートと同じくらい好きな性格のようです。本来の業務遂行はもちろんのこと、現在、モノクロナール抗体作製と初代神経培養系を確立しようと、日夜を問わず奮戦しております。
石村 知子 (事務員)
教室の事務員として、また白菊会事務局を預かる事務員として、数多くの業務をテキパキとこなす元気な秘書さんです。本州が梅雨明けした後の札幌のじめじめした気候をいやがりますが、これを「梅雨」とは決して認めません。そして、「梅雨」明け後、カーっと暑い日がくると、"これが北海道の夏だ!"と喜ぶ元気な道産子です。
深谷 昌弘 (D2)
新教室第一号の大学院生です。水産学部の修士課程の2年間を含めると医学部での研究期間は実質3年目となります。修論は、サケ科魚類のNMDA型グルタミン酸受容体の発現と機能をテーマにまとめました。現在、小脳プルキンエ細胞に特異的な接着分子を探索しています(来年のフラテ誌上においても、この研究テーマが続いていることを切に願っています)。
大島 昇平 (小児歯科)
ビール好きな歯学部小児歯科の大学院生です。新生児期の口唇部反射機能に重要な舌下神経核に注目して、NMDA受容体の発現を解析しています。美味しいカレー作りにも挑戦し、教室のジンギスカンパーティーの常任企画・担当者です。
高崎 千尋 (小児歯科)
マウスの三叉神経核のグルタミン酸トランスポーターについて 研究をしています。おしとやかな先生ですが、小児歯科軍団の陰の支配者です?根室出身なのでおいしいカニを送ってくれるそうです。
横山 理恵子 (小児歯科)
マウスの大脳皮質のバレル形成に関する研究を行っていて、難しいと言われていたバレルの染色を見事やってのけました。どれだけお酒を飲んでも酔い潰れることはなく、教室で一番お酒に強いです。いっしょに飲むときは気を付けましょう。
山下 登 (泌尿器科)
泌尿器科教室の大学院生で、今年の7月より登場しました。海馬のNMDA受容体のシナプス局在を明らかにしようと、現在電子顕微鏡の特訓中です。隠していた酒好きが、次第に露呈してきました。
医学部5年の中村美智子さんと佐藤和則君は、代謝型グルタミン酸受容体に共役する G蛋白の遺伝子発現と蛋白分子のプルキンエ細胞シナプス局在について研究を行っています。医学部4年の山崎美和子さんは、グリア細胞におけるセリン合成酵素の発現を調べています。さて、これから、このメンバーからなる生体構造学分野はどのようなハーモニーを奏でることになるのでしょうか・・・・・・。
文責:渡辺