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教室紹介(フラテ)
2009年度(平成22年3月発行 フラテ96)
私が1年半に渡るアメリカ・ボルチモアにあるジョンズホプキンス大学での留学から帰国したのは秋の気配が少し感じられる2009年9月の始めでした。私の留学期間中に渡辺雅彦教授率いる解剖発生学分野は仮住まいの管理棟2階から改修後の北棟2階に引越しを済ませていました。帰国後、最初に新しい研究室を訪れたときには、ピカピカの研究室に生まれ変わっていたのと、新たにできた北棟北西側の玄関から入ったせいもありますが、どこか全く別の研究室に赴いた気分になってしまいました。それでも、懐かしい研究室の皆さんに会って北大に戻ってきたことを実感しました。そんな帰国間もない私が「教室だより」を任されましたので、帰国後の数日間を思い返しながら新しくなった実験室とともに新鮮な気持ちで解剖発生学分野を紹介したいと思います。
まず、廊下を挟んで南側にある教授室からカラープリンターの印刷音が絶え間なく聞こえてきました。教授室に入ると渡辺雅彦教授が新学期からの講義のためのテキスト作りをしています。本年度後期からは、これまでの解剖発生学講義と人体解剖実習に加えて神経解剖学講義と脳解剖実習も担当することになり、その準備に追われているようです。そんな忙しい中でも本業の研究を着実に発展させ、渡辺教授の作製した数百種類もの免疫染色用抗体は世界各国の神経科学者に愛用されています。私の留学先でも使っている研究者がいて大好評でした。教授室手前の机では石村知子秘書が笑顔で出迎えてくれました。長年にわたり解剖発生学分野を支えてくれている石村さんの最近の気がかりは、研究室にあるブラウン管テレビの調子が悪く、テレビがもうじき見られなくなってしまうのではないかということです。さらに、冬が近づきゴルフができなくなることも憂いています。教授室から続く南側の研究室は移動がしやすいように全ての部屋が繋がっており、まずスタッフ・院生室があります。まだ引越しの段ボールが積まれた私の席の隣では清水秀美技官が解剖実習の準備に余念がありません。最近、ニューヨーク旅行に行ったそうで、留学中何度も訪れている私よりもニューヨークに詳しくて驚きました。極秘新婚旅行かと思いましたが残念ながら違うようです。スタッフ・院生室から続く大実験室には大きな実験台3台と各種遠心機、冷蔵庫、冷凍庫、PCR等の機器が並んでいます。そこでは小脳登上線維解析でおなじみの宮崎太輔助教がマイクロスライサー切片を作製していました。相変わらず宮崎助教の小脳の免疫染色データは美しいです。さらに奥には試薬棚などが置かれた組織染色室があり、そこで大きな新しい機械が一台稼働していました。聞くと大変便利な自動DNA抽出機ではありませんか!私の留学先の研究室では電気泳動するのにも他の研究室で借りなければいけない状況だったので、この研究室はなんと恵まれているのだろうと改めて感心してしまいました。
次に、廊下を挟んだ北側の実験室に向かうと、新しい研究室や機器を説明してくれている山崎美和子助教が使う電気生理用実験室があります。電子顕微鏡解析から電気生理解析までこなすマルチな山崎助教は、最近Non-RI in situ ハイブリダイゼーションに目覚め、効率よく遺伝子発現細胞の同定ができるようになったようです。隣のトレーサー注入などを行う器具のある動物処置室では博士課程4年の江本美穂院生が小脳バンディング解析用にマウスの灌流固定をしています。今年度の学位申請に向けて現在準備中です。さらに隣の共焦点レーザー顕微鏡2台と蛍光顕微鏡2台を集約した顕微鏡室では、この研究室で修士課程を修めた湯浅さんと昨年めでたくゴールインした博士課程3年の内ヶ島基政院生が蛍光顕微鏡を使って免疫染色画像のタイリングを行っていました。学振特別研究員の内ヶ島君は3年で学位を取得すべく渡辺教授と策を練っているそうです。共焦点レーザー顕微鏡の方を見ると学部学生の河北一誠君が海馬の免疫染色切片の観察を行っています。河北君のような若い学生さんと話をするとこちらも良い刺激を受けることができます。研究室北側中央に位置し、みんなが集まる画像解析室兼セミナー室では、歯学研究科小児歯科から来ている高崎千尋助教が面倒で時間のかかる電子顕微鏡フィルムの画像取り込みを行っています。この面倒な手間を解消するために渡辺教授は来年度とうとう念願のCCDカメラ付きの新しい電子顕微鏡の導入を検討しており、電子顕微鏡を使う皆が喜ぶに違いありません。隣の切片作製室には、パラフィン切片や凍結切片、電子顕微鏡用超薄切片を作製するための機器が集められています。覗いてみると専門学校で講師を務めながら大学院で勉強する修士課程2年の岩倉淳院生がウルトラミクロトームを使って免疫電顕サンプルを薄切しています。岩倉さんは勤務を続けながら研究を行うので普段は夜に研究室に姿を現します。その隣のディープフリーザーとクリーンベンチのある冷凍庫室では、勤務医を辞め一念発起して博士課程1年となった大森優子院生がクリーンベンチでHEK293細胞の培養に奮闘しています。生化学の先生に学びながら強制タンパク発現系を立ち上げ、抗体の特異性の検証を行っています。将来的には神経細胞を標識するウイルスの作製も視野に入れているようです。最後の一番奥にあるシークエンサーや電気泳動槽が置かれた暗室では、突然調子が悪くなったシークエンサーと私(深谷昌弘)が格闘することになってしまいました。
こうして留学から帰国し、新しくなった研究室を見てみると渡辺教授のお陰でいかに自分が研究に恵まれた環境にいるのかを改めて認識することになりました。この恵まれた環境に負けない努力をこれから重ねていかねばと自分を戒めながら段ボールの封を解き、新たな研究生活の準備に取りかかったのでした。
文責:深谷